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福岡高等裁判所 昭和40年(行コ)16号 判決 1966年7月18日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は別紙目録記載の土地についてなした福岡法務局西新出張所昭和四〇年一月二五日受付第一六六八号所有権保存登記(以下本件登記という。)を取り消し、これを抹消せよ。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴指定代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において、長谷部円子がなした本件登記の申請は、不動産登記法第四九条第二号、第七号、第八号に違反するものであつて、形式的のみならず、実質的にも違法、無効のものである。したがつて、これを看過して右申請を受理した被控訴人は、本件登記処分を取り消し、これを抹消すべきものである、と述べ、被控訴指定代理人において、本件登記の申請は、旧民法第九八八条による隠居者の留保財産についての所有権保存登記の申請としてなされたものであるから、右申請を受理した被控訴人の処分になんらのかしはなく、本件登記を抹消すべき理由もない、と述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

一、被控訴人が、本件土地について福岡法務局西新出張所昭和四〇年一月二五日受付第一六六八号をもつて長谷部円子のために所有権保存の登記をなしたこと、被控訴人の右登記処分に対し、昭和四〇年三月九日控訴人から福岡法務局長を相手として、本件登記は不適法として抹消されるべき旨を申し立てて審査請求をしたが本件登記の申請は隠居者の留保財産につきなされた適法のものである、との理由によつて同年二月二一日請求棄却の裁決があり、控訴人は同月三〇日右裁決書の交付を受けたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、被控訴人がなした本件登記の適否につき、これを検討するに、本件土地は、もと亡国友亮太郎の所有であつたが、同人の死亡によりその長男亡国友権蔵が家督相続によつて、その所有権を取得したことは、当事者間に争いがないところ、この事実に成立に争いのない甲第一号証の一ないし五にあわせ弁論の全趣旨を総合すると、本件保存登記の申請は昭和四〇年一月二五日長谷部円子が不動産登記法第一〇〇条第一号にもとづき、国友亮太郎の所有土地として登記簿の表題部に記載してある本件土地について家督相続を理由としてこれをなしたものであるところ、右申請にあたつてはその相続を証する書面として戸籍謄本四通を添付しており、しかも、そのうちの二通(甲第一号証の二、三)によれば、長谷部円子(旧姓国友、昭和一八年六月三〇日長谷部房雄と婚姻届出)は、亡国友亮太郎の家督相続人国友権蔵の養女として昭和一六年四月三〇日国友権蔵の死亡によつて同人の家督を相続したことを認めることができる。

よつて、右事実によれば、長谷部円子がなした本件登記の申請手続は適法であつて、控訴人が主張するようなかしはなく、したがつて、右登記申請の一件書類を書面審査のうえ、これを受理し、本件登記をなした被控訴人の処分は適法であつて、これを取り消すべき理由はない。

もつとも、右登記申請にあたり添付された戸籍謄本二通、すなわち、前顕甲第一号証の四、五によると、長谷部円子は、本件登記の申請をなした当時はすでに隠居し、そのあとを国友アキが家督相続していること、したがつて、長谷部円子は隠居によつて本件登記申請当時においては一応本件土地の権利者といえず、このことは本件登記申請の一件書類から窺知できないこともないけれども、かかる事実は被控訴人がなした本件登記をなんら違法ならしめるものではない。けだし、本件土地についてはその所有者であつた国友亮太郎、国友権蔵はいずれも死亡しているので、未保存登記の本件土地をその家督相続人である長谷部円子が保存登記をすることは、登記を物権変動の過程と態様に符合させるという登記制度本来の趣旨からもこれを肯認すべきであるからである。したがつて、長谷部円子が適法な申請手続にもとづき本件登記を申請した以上、登記官たる被控訴人はその職務権限に照らしこれを却下すべきものではない。

なお、控訴人は、本件土地の所有権は国友権蔵から松隈和之を経て控訴人が現在、これを取得したものである、と主張するが、かかる実体的な権利変動に関しては登記官たる被控訴人に審査の職務権限がないことはいうまでもない。ゆえに、控訴人主張のように、かりに長谷部円子が相続によつて本件土地の所有権を実体的に取得しなかつたとしても、かかる事実によつて、被控訴人の本件登記が違法となるものではない。

これを要するに、控訴人の本訴請求は理由がなく棄却すべきものである。

三、よつて、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、控訴費用の負担について、民事訟訴法第九五条本文、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(別紙目録は第一審と同一につき省略する。)

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